<明日への一歩>孫ターン人の絆頼り – 読売新聞



 ◇須崎 祖母ゆかりの地で起業

 須崎市中心部から7キロほど離れた浦ノ内西分地区。師走の乾いた空の下、畑には葉ニンニクが青々と生い茂る。元大手自動車メーカー社員で8年前に移住してきた嶋崎裕也さん(38)が数本を引き抜くと、独特の香りが鼻をくすぐる。「日光の降り注ぐ中で働くと、人間としてのあるべき姿だなと実感しますね」

 嶋崎さんは、すり下ろした葉ニンニクに酢みそなどを加えた高知独特の調味料「ぬた」の製造・販売を手がける会社「アースエイド」を営む。兵庫・淡路島生まれで、父方の祖母、益美さん(89)が暮らす須崎市に移住した「孫ターン」組の一人だ。

 車好きの嶋崎さんは大学院を出て、「マツダ」で、新車のテストドライバーやエンジン開発に携わった。しかし、20歳代で母親を亡くし、リストラの憂き目に遭った父親の生活を支える必要も出てきた。

 どうするべきか迷っていた2007年正月、益美さん宅で食卓に出された寒ブリの刺し身を見て仰天した。切り身の上にかかっている、どろりとした緑のペースト状のもの。「これは何だ?」。だが口に運ぶと、食欲をそそる香りとうまみが口の中に広がった。

 ぬたは葉ニンニクが収穫できる冬の間だけ、各家庭で作って食べるもので、保存がきかないこともあり、県外にはほとんど知られていなかった。

 「ぬたは地域に埋もれたリソース(資源)。年中食べられるようにして広めれば、オンリーワンになる」。09年にマツダを退職し、企業経営を学ぶため大阪でアパートを借りて講座を受講したり、各地の工場を見学して衛生管理を学んだりして準備。10年に須崎市に移住し、13年にアースエイドを設立した。

 須崎市は住んだことはないが、幼少期に川や森で魚や昆虫を捕って遊んだ思い出の地。起業にあたっては、祖母を通じた人とのつながりに助けられた。

 作業場は近所で不要になったサッシやトタン、木材を譲り受け、知人が紹介してくれた大工に格安で作ってもらった。葉ニンニクを育てる40アールの畑も全て付近の住人らから借りているものだ。

 地域に育まれて、会社設立から5年で、年間12万個を売り上げるまでに成長。須崎市のふるさと納税の返礼品にも選ばれた。

 「人の絆を頼りにすることができた。若者が少なくなっているので、地域のみなさんがよくしてくれるのはありがたい」と嶋崎さん。益美さんは、高齢で体が弱り、最近は仕事の手伝いをすることはなくなったが「孫が近くにいてくれるだけで本当に心強いですよ」と目を細める。

 安芸市企画調整課で移住施策を担当する松井有司さん(36)も「孫ターン」組。札幌市出身だが、父親の古里である高知で大学に進学した。「高知は温暖な気候で暮らしやすく、街はコンパクトで住みやすい。みんな明るくて、気に入った」という。

 16年度、県の相談窓口を経て県内移住した人は1037人と初めて1000人を突破。19年度以降は「移住者年1000組の定常化」を目標に掲げる。県内で孫ターンに関する統計はないが、辻和生・移住促進課長は「孫ターンは高知にゆかりのある人なので、移住を決断してくれやすい。効果的にPRする取り組みを検討したい」としている。

(今村真樹)




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