林家 正蔵さん(落語家) 旬へのこだわりに感謝 ご飯好きは江戸っ子血筋 – 日本農業新聞



 典落語に打ち込んでるおかげで、江戸の庶民の暮らしぶりをうかがい知ることができるんですね。江戸っ子というのは、大変なご飯好き。こんな小噺があります。

 「おっかあ、今、けえったよ」「あらま、お帰りなさい」「隣の家、子どもがいるのにな、飯じゃなくて芋食ってたよ。子どもだったらご飯くらい食いてえだろうに。なあ、うちのご飯、持って行ってやれよ」・・・「行ってきたよ。もう涙流して喜んでたわ」「そりゃあよかった。じゃあ、飯にしよう」「ないよ。今あげちゃったから」「ああ分かった。じゃあ、芋を食おう」

 江戸っ子のご飯好きと人情を示す小噺で、私は大好きです。

も母も江戸っ子ですから、その血が流れているんでしょう。私もご飯が好きですね。

 母の知り合い、弟子の実家、お客さまなどから、新米を送っていただくんです。一番早いところで種子島。新米が届き始めるとうれしくて。

 公演で佐渡に行ったときのことが忘れられません。その日の楽屋での食事は、地元の婦人部の方々が作ってくれた塩むすび。それに煮物、漬物、梅干しが並んでいました。

 そのおいしかったこと。お米のうま味と甘味が感じられて。感動しましたねえ。こんなおいしいお米のとれる所は、とてもいい所なんだろうと思います。東京者の憧れの場所ですね。

 は季節季節で江戸で食べていたものを出してくれました。また、食べ物についても江戸言葉を大事にしています。

 おみおつけ、落語の中では、おつけといいますが、これはおみそ汁の江戸弁なんです。「小言念仏」という噺には、おつけの実としてドジョウが出てきます。うちではおみそ汁という言葉は使わず、「今日のおつけの実はなあに?」と。この方が風情があると思います。

 母がよく作る料理に「あぶたま」があります。油揚げの卵とじで、江戸っ子の食べ物だそうです。濃いおだしの中に油揚げを入れて、当時貴重だった卵をサーッと。あまり熱が通らないところで止めます。

 覚弥の香々(かくやのこうこ)も出ます。ナスやキュウリの古漬けを水で戻してギュウっと絞って細かく刻み、みじんにしたショウガと合わせて、おしょうゆをひと垂らしして食べるんですね。若い衆が出てくる長屋物の「酢豆腐」にも出てきます。

 それと金平。江戸時代、おかず番付というのがあったんですよ。金平は大関でした。

 こうした料理を、家族や弟子、皆そろって一緒に食べるように心掛けています。私にはまだ大学生の子どもがいるし、弟子は9人。箸の進み具合や表情で、いろんなことが分かるんです。こいつはうれしいことがあったんだな、こいつはちょっと悩みごとがあるんだな、と。皆で食べる習慣は、ずっと続けたいですね。

 落語の中に、練馬の大根、谷中生姜、小松菜といった野菜が出てきます。こうした江戸野菜を復活させようと努力を始めた農家の方がいらっしゃいます。これはとてもうれしいですね。

 最近は、野菜の季節が分からなくなってきました。年中食べられるのはありがたいですが、一方で本来の旬というものにこだわって一生懸命作っている方もいらっしゃいます。私はそのこだわりに、感謝したい。江戸時代の庶民の味を食べて、庶民の暮らしぶりが分かる噺を続けたいと思います。(聞き手・写真 菊地武顕)

 <プロフィル> はやしや・しょうぞう 

 1962年東京都生まれ。祖父は七代目林家正蔵、父は初代林家三平。78年に父・三平に弟子入り。87年真打に昇進。親子三代にわたっての真打は史上初。2005年に九代目林家正蔵を襲名した。14年から落語協会副会長を務める。8月31日、浅草演芸ホールで初代林家三平追善興行。9月16日、東京・下北沢のアトリエ乾電池で独演会。




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