絶滅の危機に瀕する一品も? 地元民が溺愛する大切な味“ソウルフード”の魅力 – BIGLOBEニュース





■郷土料理とご当地グルメの違い

 日本最大級のまちおこしイベント・B-1グランプリが起爆剤となり、ますます注目を集める各地の美味しい食べ物たち。

 昔ながらの“郷土料理”と昨今ブームの“ご当地グルメ”にどんな違いがあるのか。フードジャーナリストで郷土料理伝承学校校長も務める向笠千恵子さんによると、

「郷土料理というものは、ただ単にその土地で収穫できる食材を使っているというだけでなく、土地ごとの気候風土、人々の暮らし向き、伝承文化などによって育まれたものです」

 生活に密着した料理でもあるため、発酵させるなどひと手間加えて栄養価を高めたり、日持ちをさせるなど、生活者の知恵も各所に見受けられるという。また、祭事などハレの日に振る舞われるものも多い。

 昨今の“ご当地グルメ”は、その進化版。郷土食にカレーやコロッケ、パスタといった、外国の食文化を取り入れるなど、よりオリジナリティーあふれるものが比較的多い。

「ご当地グルメは、郷土料理から、まちおこしのために新たに作られた創作ご当地料理まで幅広く、そのジャンルを示すものととらえています」

 と語るのはご当地グルメ研究会の松本学さん。なかには創作されて日も浅く、地元の人たちにはなじみが薄いものもあるが、一般的には、地元の人々に長年食され、親しまれる地域限定の食べ物といえるだろう。

■離れてから初めて気づく大切な味

 トラベルライター、カベルナリア吉田さんのソウルフードはジンギスカン。

「北海道生まれの僕の、いわば離乳食でした。サッポロビール園のジンギスカン食べ放題は、幼稚園児だと無料で。当時5歳の僕があんまり食べるので、最初は“坊や、よく食べるねえ”なんて言っていた店長の笑顔が、途中から消えたのを覚えています(笑)。それくらいヒツジは大好き! 僕の原点の味ですね」

 前出の松本さんは言う。

「ご当地グルメの中でも、その地方の人々の多くから、地元の味として認められたものが、よりディープなご当地食・ソウルフードなのではないでしょうか」

 ソウルフードは、その地方、地域で育った人が日常的に食べているため、当たり前すぎて、地域独特な食べ物、食べ方と知らなかったという人も少なくない。

 フードライターの白央篤司さんは、こう語る。

「その土地を離れたときに、初めて価値に気づくことも。地元の人に話を聞くと“好きとかそういうものじゃない”なんて答えが返ってきたり……。それでも進学や就職で土地を離れて、しばらく食べない時期があって“あ、好きだったんだ”と気づいたという声をよく聞きます」

 身近すぎて気づかず、離れて初めて好きだと気づく。まるでラブストーリーのようだ。

■もうひとつのソウルフード

 このように誰もがひとつは持つソウルフードだが、その本来の語源は、アメリカ南部で奴隷制を通して生まれた、アフリカ系アメリカ人の貧困と被差別を物語る黒人料理の総称ということをご存じだろうか。現在でもアメリカでソウルフードといえば南部の伝統料理を指す。

 またソウルフードには“労働者の飯”という側面もあり、アメリカ南部だけでなく、世界中に存在するという。ソウルフードに造詣の深い吉田悠軌さんは、

「日本では揚げ物など油を多く使った料理や、戦後、アメリカから安く入手できた小麦粉を主体にした“粉もの”がその代表。これらはアメリカ黒人同様に、当時の人々が必要に迫られて編み出した料理といえます。つまり安価でカロリーの高い料理は、当時の貧しい肉体労働者には欠かせない食事だったということです」

■それぞれの物語を知る楽しみ

「食をたどるほどに、その土地を深く知ることにつながる」と向笠さんは言う。地域で愛される料理は、どのように生まれ、人々に受け継がれ、どのように変化しながら、今、私たちの目の前に提供されているのか。

 それぞれの料理に、物語がある。その物語は、地域を知るのみならず、より深く料理を味わい、楽しむための隠し味となるはずだ。

■各地のご当地グルメ「コレがオススメ!」

■向笠千恵子さんオススメ!

「福島県の会津若松に伝わるにしんの山椒漬けは、ぜひ1度食べていただきたい郷土料理。ご飯のおかずにもお酒の肴にもピッタリ。会津本郷町では、にしんを漬けるための専用のにしん鉢が、伝統の技術である会津本郷焼で作られ、ひと昔前までは、その鉢が会津の家庭には一般的にあったほどです。山に囲まれているため北海道で乾物に加工された身欠きにしんが貴重なタンパク源でした。鮮魚が流通してなかった時代、日持ちする身欠きにしんをしょうゆ味の酢漬けにして保存食に加工したのです。田植えの後の疲れた身体の栄養食としての役割もあったのでしょう。現在でも毎年、山椒が芽吹く春から夏にかけて各家庭で漬け込まれ、常備食として受け継がれています」

■白央篤司さんオススメ!

「今も各家庭で愛され、作られているという意味で新潟県ののっぺはオススメです。地域によってディテールがかなり違うのです。基本はサトイモが必須の汁もの。ただ、だしは煮干しだったり干し貝柱だったり、具材も鮭がマストの地域もあればそうでないところもある。“大鍋でたっぷり作る”“冷まして食べる”という点はだいたいの共通項ですが、家庭ごとに“うちのスタイル”があるのが、いかにも郷土料理だなと感じます。代々のお母さんの工夫と、好みの積み重ね。新潟人の数だけのっぺがあると私は思います。

 ポルトガル語で“小さく刻む”を意味するピッカード(Picado)が語源の長崎県のヒカドも、地方や家庭ごとに違う料理。長崎を訪れたポルトガル人やスペイン人が伝えたものとされ、魚と肉と野菜を細かく切って一緒に煮たものです。私が食べたのは豚とブリという組み合わせ。魚と肉を一緒に煮るというと抵抗があるという人もいると思いますが、これが意外なうまさです」

■松本学さんオススメ!

「焼きそばに和風だしをかけて揚げ玉をトッピングする青森県黒石市の黒石つゆ焼きそばは、完全にミスマッチなのにクセになる味! 何といってもおもしろいのがそのルーツ。昭和30年代に実在したお店で、学校帰りのお腹をすかした中高生に、冷めた焼きそばに温かいそばつゆをかけたのが発祥だといいます」

■カベルナリア吉田さんオススメ!

「ご飯の上にせん切りキャベツを敷き、その上に秘伝のソースにくぐらせたカツをのせた長野県の駒ケ根ソースカツ丼がオススメ。丼のフタからグワシとはみ出した豚ロースのカツはとにかくでかい、分厚い! その下にはキャベツが大量にひそんでいる。ちょこんとのせられた丼のフタをはずしてそばに置き、あふれんばかりのカツの受け皿に。そうするとカツとご飯をバランスよく食べられるんだそう。肉もソースも本当にうまいと思わずうなる味!

 北海道釧路市のジョイパックチキンもぜひ! 釧路市民にとってフライドチキンといえば、ケンタッキーではなくジョイパックチキンなのだ。“ジョイパックは釧路の誇り!”という人もいるほど地元民に愛されている。なかでもオススメは、あるようでないカレーチキン!」

■吉田悠軌さんオススメ!

「レバーやミノをフライにした惣菜で、クセのある味とモツのやわらかみが特徴の京都駅周辺のホルモンフライ。おそらく京都駅周辺が発祥の地なのだが、これからの再開発により同地のホルモンフライを出す店舗が全滅する危険性が高い。実際、私がホルモンフライを求めてさまよったところ、次々と店が閉業している事態に。今のうちに食べなくてはならない絶滅の危機に瀕したソウルフードです」

<取材したのはこの方々>

向笠千恵子さん◎フードジャーナリスト・食文化研究家。本物の味、伝統食品づくりの現場を知る第一人者。『日本の旅ごはん』(小学館)など著書多数。『食の街道を行く』(平凡社新書)でグルマン世界料理本大賞グランプリ

松本学さん◎ご当地グルメ研究会代表取締役。池袋ナンジャタウンなどにおけるイベントプロデューサーとして活躍。’09年、ご当地グルメをメインとしたイベントの企画、制作、販売業務などを手がけるご当地グルメ研究会設立

カベルナリア吉田さん◎トラベルライター。沖縄と島を中心に、自分の足で歩く「実踏の旅」にこだわり、全国を回って紀行文を執筆。著書に『肉の旅』(イカロス出版)、『沖縄戦546日を歩く』(彩流社)ほか多数

白央篤司さん◎フードライター。食と健康、郷土料理をメインテーマに執筆。著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『ジャパめし。』(集英社)ほか。『栄養と料理』や農水省広報誌『aff』などで執筆

吉田悠軌さん◎怪談研究家。怪談サークルとうもろこしの会会長。怪談の収集・語りとオカルト全般を研究。ソウルフードにも造詣が深い。近著に『怪談現場 東海道中』 (イカロスのこわい本)など




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