なにをもって「豊か」だというんだろう? ブータンから学ぶ、小さな国の大きな幸せのつくり方 – greenz.jp



みなさんはブータンと聞くと、どんなことをイメージしますか?

近年、ブータン国王の来日と共に、「幸せな国」として知られることも多くなったブータン。国民総生産(GNP)よりも国民総幸福量(GNH)を掲げ、国民のほとんどが「幸せ」だと答える国です。

では実際、ブータンではどんな暮らしがあり、何をもって幸せだと感じているのでしょうか? そして、そこから学ぶべきこととは。

今回は、現地駐在員としてブータンで暮らす松尾茜さんにお話を伺いました。

ブータンの美しい風景と共に、「幸せ」について、「ブータン」について考え、感じてみてください。

松尾茜(まつお・あかね)
大学卒業後、旅行会社に5年勤務したのち、日本人観光客とブータンをつなぐ任務を担い、現地採用へ。現在、日本環境教育フォーラム国際事業部、ブータン王立自然保護協会駐在員としてブータンと日本を行き来している。

ブータンってどんな国?

まずはブータンについて少し詳しくご紹介しましょう。インドと中国に挟まれた場所に位置するブータン国。大きさにして九州ほどの国土は70パーセント以上の森林に覆われ、自然豊かな光景が今なお残る、小さな国です。

日本と同じく四季があり、標高が高いため長野県に似た気候だとか。蕎麦や米など農業が盛んで、国民の7割は農業で生計を立てているそう。

素朴なイメージがあるブータンですが、じつは水力発電事業が盛んな電力輸出国。インド出資のもと、電気をつくりインドへ売ることで外貨を獲得しているのですが、特筆すべきはその事業の在り方です。

ヒマラヤの自然の高低差を利用し、豊富な水で発電。無理な開発は決してせず、ブータンの自然や景観を守ることを大前提としながら持続可能な近代化を目指していて、発電だけではなく、観光業にもその理念を生かし、サスティナブルツーリズム、持続可能な観光開発を政策に掲げています。

タクツァン僧院(タイガーズ ネスト)の風景。ブータンの観光は「公定料金制度」。観光客は必ず現地ガイドとドライバーをつけ、また内国税を払う仕組みとなっています。これは観光客過多となり地域環境や文化に悪影響を及ぼすことを防いでいるとか。

また、多くの先進国が国の発展の度合いをGNP(国民総生産)で測るのに対し、ブータンでは、GNH(国民総幸福量、以下、GNH)が国の成長基準。

公正で公平な社会経済の発展。
文化的、精神的な遺産の保存、促進。
環境保護。
しっかりとした統治。

この4つの理念のもと、国民ひとりひとりが心の幸せを感じることで国の発展を測っています。これが、ブータンが「幸せの国」と呼ばれるゆえんです。

大きな産業や資源はなく、国民の収入もそれほど多くはないといいますが、国民が幸福度の高い日々を送る国、それがブータンのようです。

ブータンらしい発展のありかた

ここからは、現地駐在員としてブータンで暮らす松尾さんのお話と共に、ブータンの「今」を見ていきましょう。日本とブータンを結ぶ任務を背負い、2012年5月、ブータンへと渡った松尾さん。そもそも、現地駐在員とはどんなお仕事なのでしょうか。

一言でいうと、ブータンに観光産業をつくるという仕事です。ブータンは国の中に資源があまりなく、また自然を破壊してまで資源を採掘しないという理念があって。

物質的になにかを増やしていく発展ではなく、昔からある自国の自然と伝統を残すこと自体を観光資源にする。とてもブータンらしい発展を目指しているんですよね。

現地スタッフと共に仕事をする松尾さん。

2015年からは公益社団法人日本環境教育フォーラムに在籍、ブータン王立自然保護協会駐在として地域観光開発に携わる松尾さん。その仕事内容は地域おこし協力隊のようだとか。

今はブータンの「ハ」という地域の地域おこしをしています。実際、現地スタッフと共に福島の地域再建の視察を行い、日本の地域おこしのノウハウを生かしながら、地域に観光産業をつくる、これが一つ目の仕事です。

二つ目はローカルガイドの育成。これは、ブータンの社会課題に対する意味があって。今、ブータンの教育レベルはかなり上がっています。幼稚園から、教育には主に英語が使われ、高校、大学を卒業する若者も増えています。

一方で高学歴の若者が満足するような職業が少ないのが現状。首都ティンプーでも仕事がなく失業してしまう。失業者の若者がドラッグやお酒にはまってしまうケースもあって。

それに対してのアクションとして、首都に仕事がないなら、地域に地場産業を育てようという取り組みがローカルガイドの育成です。自分の生まれ育った地域を人に伝えるにはどうしたらいいか、エコツーリズムの発想で人に伝えるスキルを上げる指導をしています。

現地の農家さんと観光客をつなぐ「農家ホームステイ」。JICA(独立行政法人国際協力機構)草の根技術協力事業のもと、地域で興味のある農家さんに手をあげてもらい、おもてなし研修プログラムを実施。ベットメイキングのしかたやブータンの伝統を生かしつつも海外の観光客向けにアレンジしたレシピの提案なども松尾さんの仕事です。

家事や農業の副業として、ローカルガイドをする若者。自分の体験をもとにして話すことで、収入を得るだけではなく、地元に対する再発見、愛着や誇りを取り戻す効果もあるのだそう。

この他にも、地域特有の特産品づくりや、道の駅づくりの企画・設計など、地域と密着した観光産業づくりが松尾さんの主な仕事だとか。産業をつくるだけではなく、商品開発を通じて、つくり手の雇用を生むなど地域経済の循環を促すような取り組みにも力を入れているといいます。

地域にある素材を生かした特産品づくり。
土着料理、そば粉を使った餃子のお土産セット。その他、そば粉かりんとう、よもぎの香り袋、ヤク(ブータンに生息する牛の一種)の毛をつかったキーホルダーなど。

じつは、ブータンは近年、長年の王政から民主化を遂げたばかりの国。近代化しつつもブータンらしさを忘れない発展こそ、ブータンの魅力だと松尾さんは教えてくれました。

真逆の価値観で生きる

ブータンで仕事をし今年で5年。現地ではブータン人のスタッフと共に日々奮闘しているという松尾さんですが、まさか自分がブータンで働くことになるとは思っていなかったと笑います。

東京生まれ、東京育ち。大学卒業後は大手旅行会社に入社。そんな松尾さんがブータンに惹かれ、ブータンで働くことになった背景には、ブータンで生きる人たちの価値観への共感があったといいます。

ブータンを知ったきっかけは高校のとき、祖父が旅行で1ヶ月滞在をしたことでした。
帰国して話してくれたエピソードが忘れられなくて。

寒い日、現地ガイドさんが薪ストーブに火をいれようとしたところ、一匹の虫がくべる薪の割れ目に入ってしまったというエピソードだったそう。

ブータンの人は仏教を重んじていて虫一匹も殺さない。ガイドさんが一生懸命虫を取り出し、それを火にくべた。それだけブータンの人は慈悲深いんだよって。

そういう慈悲深い国民ばかりがいる国があるってことが印象的だったんです。

もともと国際社会や貧困問題、途上国の格差などにも興味があったという松尾さん。
大学進学後、いろいろと勉強する中でひとつの違和感が生まれたそう。

途上国が発展する上で、そもそも、ここでいう”発展”ってなんだと思うようになったんです。

豊かさってなんだ、なにをもって豊かだというのか。逆に、なにをもって貧しいというのか。そもそも何を目指すべきなのか。そうした根本的なところに行き着いて。経済的に豊かな国が経済的に貧しい国を援助するのは上から目線で、価値観の押し付けなんじゃないかと。

逆に土着の文化や、途上国の近代化の前にあった文化に興味を持つようになりました。

そして文化人類学を学ぶうちに、ブータンは土着の文化を大事にしていて、仏教の教えも相まって、さらに国民総幸福という経済的な豊かさだけではない価値観で発展を目指していることを知った松尾さん。

「なにをもって幸せというのか」。ブータンのもつ価値観こそが自分の求める答えに近しいと感じたといいます。

モノや貨幣の多さではなく、家族とともにいる時間を大事にし、それが幸せというブータンの人の心持ちを知って、「ああ、そうだよね。経済的な豊かさとか、モノがあふれていることが豊かじゃないよね」って思ったんです。

さらに、旅行でブータンに足を運んで、サスティナブルツーリズム、持続可能な観光開発を目の当たりにしました。なにをもって幸せというのか、そしてどうやって発展を実現させていくか、資源や国民を大切にしながら発展するブータンには、その実践が広がっていると感じたんです。

その後、ある偶然が松尾さんをブータンへと導きます。

2011年、ブータン国王が来日。東日本大震災の直後ということもあり、被災地を訪問、また、日本を労わり、慈悲深く語られた国王の演説は多くの日本人の心に響きました。

そこで起こったのがブータンブーム。日本からの観光客が急増、ブータン政府に問い合わせが殺到したといいます。

その時、ブータン政府が政府観光局の日本人スタッフを募集したんです。それを偶然、ブータン政府のフェイスブックで知りました。その場ですぐ応募、そうしたら、採用されて。もうびっくりですよね(笑)

こうして2012年に現地採用員としてブータンへ移住。収入は激減したといいますが、松尾さんは笑顔でこう話します。

お金がなくてもブータンでは生きていけるんです。そういうところも好きです。

持続可能な近代化とは、経済発展を優先しないこと

日本のみならず、世界中をターゲットに観光業に力をいれているブータン。

意外なことに外資というお金の概念が国民に広がったのは、まだ新しいことだといいます。

第4代国王の指示のもと、近代化を目指し、王政から2008年に民主化、そして幸せの国へ。そこにはどんな意味があるのでしょうか。

よく「平和な民主化」といわれます。これには第4代国王が大変聡明な方で、近年のグローバル化に伴い、国民ひとりひとりがもっと自立しなくてはいけないという考えのもと、自ら、王政から民主化した経緯があります。

民主化は、ブータンらしい近代化をするためのひとつの出来事だったと松尾さん。ブータンらしい近代化とは、持続可能であり、経済発展ではない豊かさがそこにあると続けます。

日本もそうですけど、経済発展を優先するばかりにコミュニティが崩壊したり、稼ぐことが優先になって幸福ではない人が増えたり。なんだか違いますよね。

たとえば、車社会になりつつも、ブータンには信号機がありません。警察官の手旗信号です。これは象徴的で、犬や猫、牛も道路を使う、だから警察官が車を止める。

人が判断して、牛も人も車も譲り合って暮らす。信号機では判断できませんよね。合理的、効率的に近代化するのではなく、動物や人を優先しながらも近代化していくブータンらしい価値観だと思います。

中央で警官が手旗信号で車や人、動物を誘導する風景

また、近代化しつつも国民の心の豊かさを持続可能にする背景について、こう話します。

ブータンの人は、なによりも家族を大切にします。家族の幸せが自分の幸せ。

家族と過ごす時間を削ってまで仕事をするなんてありえないから、残業はしない。
それに働くこと自体がポジティブなんです。

両親を早く楽にさせてあげたいから稼ぎたい、家族との時間を大切にするから働きすぎない。そのバランスがいいというか。

絆も強くて、親戚の友だちまで親戚として接したりします。一緒にご飯を分け合うから、食べるというサービスにお金をかける感覚が日常にない。お互いさまが当たり前で、だからお金がなくても暮らしは成り立つんです。

今、日本でもアーバンパーマカルチャーやギフト経済が新しいムーブメントになっているけど、ブータンでは脈々と営まれていることで。

「ブータンは一周遅れのトップランナー」って言葉があるんですけど(笑) まさにそんな感じです。

「純粋さと忠誠心を持ちながら富む」。これは、ブータンの国旗に描かれている龍の意味だそうです。「富」とは幸福ですが、自分だけが抜きん出て多くを得るのではなく、みんながバランスよく幸福であることが富。その心持ちで持続可能な近代化を進むブータンはまさに今、トップランナーなのかもしれません。

なにが豊かなのか、選ぶということ

最後に、松尾さん自身がブータンで長期にわたり活動する今、豊かさについてどう考えているかを伺いました。

豊かさって、私にとっては「自分の望む生き方ができる自由」だと思います。
いろいろな価値観があって、その中で、自分の価値観で選択すること。

ブータンの人は家族や仏教が大事だから、それをベースに考え、言葉にし、暮らす、それが豊かなことにつながっている。とてもシンプル。そのシンプルさを絶妙なバランスでナチュラルに暮らしに取り入れているのがブータンなんだと思います。

今、働きすぎていてバランスがとれない人が多いですよね。私もかつては東京で働いていたのでよくわかります。だから、バランスこそが大事なんだと思います。何をもって豊かだというかは人それぞれ。そこにフォーカスすれば、自ずと自分の道は見えてくるはず、シンプルなんだとブータンの人は伝えてくれました。

今は自分が好きな国で好きなことをできているのが本当に嬉しくて。だから、東京で働いていた時に比べて収入が少なくても、幸せなんです。

何が大事で、どんな時間を誰と過ごすのか。

なにをもって豊かだとというのか。

GNH(国民総幸福量)や近代化というキーワードの背景には、家族、自分のまわりの生きとしいけるものすべてが幸せであること、そのために日々、暮らすということ。

そんなシンプルなことで成り立っているように感じました。

あなたはどんなことを感じましたか? 自分なりの豊かさ、幸せを、少し立ち止まって想い巡らせてみてはどうでしょう。




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