なぜ赤字でも農業を続けるのか – 日経ビジネスオンライン



地方企業が掲げる「経済以外の価値」

2017年9月15日(金)

 ほかの産業では考えにくいことだが、農業には往々にして「赤字でも続ける」というケースがある。必ずしも補助金が出ているからではなく、「農業が好きだから」「地域を守るため」という思いで続けている例が少なくない。兼業農家の中にはそういう人がいるが、今回は企業のケースだ。

 紹介するのは、新潟県糸魚川市の建設会社、谷村建設の子会社の糸魚川農業興舎だ。主な作物はコメとトマト、ブドウ。2005年の設立から、一度も黒字になったことはない。それでも、谷村建設の専務で農業興舎の社長を務める梅沢敏幸氏は「撤退はいっさい考えていない」と言い切る。

2016年の「糸魚川大火」では…

 なぜ10年以上続けても利益を出す見込みがないにも関わらず、撤退を考えないのか。そのことを理解するために、糸魚川市で2016年12月に起き、144棟が延焼した大火のことをふり返ってみたい。

 谷村建設の建物は被災を免れたが、西風にあおられて火の粉が近づくなど、切迫した状況にあった。もし、大規模な火災が新宿や銀座、大手町といった都心で起きていたら、現場近くの企業の従業員が取るべき行動は1つしかない。安全な場所への避難だろう。

 ところが、地方では事情が変わる。梅沢氏はまず、すべての仕事の中止を指示し、社員を情報収集に走らせた。火災の状況を確認するためだ。コンピューターのデータのバックアップをとり、パソコンを別の事務所に運び出させた。

 火の手が迫ったときのことを考え、いくつかのバケツに水を入れ、屋上に運び上げた。火の勢いによっては、バケツの水だけでは対応は難しいだろうが、できることはやっておくという姿勢だった。ここまでは、自社の被害を少なくするための手はずだ。

 対応はこれでおしまいではない。社員の中に消防団が十数人いて、消防活動にかけつけた。消防団のOBも後方支援に回った。水をためたコンクリートミキサー車が現地に向かうと、水を受けるための鋼製の大型のダストボックスを複数送った。ミキサー車から直接、ポンプで放水することができないからだ。

「撤退は考えていない」と話す谷村建設の梅沢敏幸専務(左)。右は稲作担当の渡辺敏哉氏(新潟県糸魚川市)

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