秋田のポートランドがミレニアル世代や起業家を惹きつける理由 – BUSINESS INSIDER JAPAN



古民家を再生したシェアビレッジ町村」

秋田市から北へ約30kmの五城目(ごじょうめ)町は人口約9000人、主な産業は農業と、どこにでもありそうな田舎町だ。だが今、ベンチャー企業や若者が日本中から集まっている。世界を見渡せば全米から若者が集まる、自然豊かな米オレゴン州ポートランドが注目を集めるが、五城目はまさに“日本のポートランド”を目指している。

仕掛け人は東京出身で、教育・コンサルティング業「ハバタク」を営む丑田(うしだ)俊輔さん(32)。地方で豊かに暮らすという、ミレニアル世代の新しいライフスタイルのあり方も提案している。

ベンチャーで地元に新たな仕事を生む

丑田俊輔さん

丑田俊輔さん。東京で起業し、「自然豊かな環境で子育てがしたい」と秋田に移住した。

丑田さんと五城目町との縁は慶應義塾大学在学中にさかのぼる。町と姉妹関係にあり、住民の相互交流事業などを行なっている東京都千代田区が立ち上げた、ベンチャー企業やNPO団体がオフィスをシェアする「ちよだプラットフォームスクウェア」に協力したことだった。

五城目町でも廃校になった旧馬場目小学校を、千代田区と同様に起業や市民活動にチャレンジする人たちが集まる場所にしたいという思いがあった。それが地域活性化支援センター(通称BABAME BASE)計画に発展した。

日本IBMを経て東京で「ハバタク」を起業していた丑田さんは、妻、香澄さんが秋田市出身でもあり、「自然豊かな環境で子育てがしたかった」と、2013年10月にオープンした同センター内に秋田事業所を作り移住した。

「子どもたちは保育園に預けたが、地元の方々がいろんなことを教えてくれる。地域のお年寄りが山へ子どもたちを連れて山菜について教えてくれた。子どもは自然の中を走り回っています」

そのBABAME BASEには現在、13社のベンチャー企業が入居している。業種はデザインやIT、ドローンなどさまざまだ。企業誘致で町おこしを計画する地方自治体は多いが、うまくいくケースは少ない。

丑田さんは逆転の発想で、地域発の新たなビジネス作りを支える。

「大企業誘致が無理ならベンチャー企業が集まればいい。下請けではなく、新たな仕事を生み出していくよう産業構造を変えていきたい」

クラウドファンディングで古民家再生、交流人口増やす

ラズマンと鈴木矩彦さん

鈴木矩彦さん。東京からUターンし、ラズベリーを使ったビール「ラズマン」を製造。

東京から五城目町へUターンしてきた鈴木矩彦さんは、町が特産品として栽培に力を入れているラズベリーを使ったビール「ラズマン」を製造している。濃厚なスタウトビールに、ラズベリーの酸味が引き立つ。「丑田さんに相談できたから起業できた」と話す。

「ラズマン」は、BABAME BASEに程近い町村地区にある、築130年以上の茅葺きの古民家で限定販売されている。この古民家の再生を引き受けたのも丑田さんだ。

「古民家には都市の豊かさの価値観を見直す物語があり、保存だけでなくビジネスとして回す方法を考えた」

解体が検討されていた古民家を再生するため、「年貢を納めて村民になろう!」というキャッチフレーズでクラウドファンディングによる寄付を募ったところ、40都道府県の862人が賛同し、短期間で700万円以上が集まった。古民家は「シェアビレッジ町村」として2015年5月に再生、五城目町では唯一の古民家である。

現在は3000~1万円の年貢(年会費)を納めると「シェアビレッジ」の“村民”となり、好きなときに古民家に宿泊できる。土間のかまどでご飯を炊いたり、地元の食材を使って食事を作るほか、各種イベントや近隣での畑仕事に参加できる。会員数は全国で2000人で、中心は30代、半数が首都圏在住者だ。滞在を楽しみ、交流人口を増やすことは人口減少対策の早道でもある。

「村民が『第二の田舎』として行き来すれば、都会で何らかの発信をしてもらえる。いきなり移住に踏み切るのは難しいし、『ゼロか100か』で考える必要はない」(丑田さん)

朝市活性化でシニアや女性の意識が変わる

もう一つ手がけたのが、五城目町で520年以上も続いてきた朝市だ。五城目バスターミナルの近くの下夕町通りで、定期開催日は「0」「2」「5」「7」のつく日で、日曜に重なった日は「ごじょうめ朝市plus+」として、若者や新規参入者の出店を受け付けている。

6月25日に開かれた「朝市plus+」では、地元の人たちによる野菜や漬物など地場産品のほか、大学生のサークル海外産品の出店もあるなど、バラエティー富んだ店が並び大勢の人出でにぎわった。

ごじょうめ朝市plus+

520年以上の歴史ある朝市は「ごじょうめ朝市plus+」と進化し、若者や新規参入者で賑わってる。

朝市は、地方では夫や父の陰に隠れて閉じこもりがちの女性たちが、活躍の場を切り開く機会にもなった。

「田舎での女性のチャレンジ機会は少ない。朝市には街の女性たちの『みんなで活動の場を作っていこう』との思いがある。仕事が回り始めれば暮らしが楽しくなり、経済的にもプラス。いずれの取り組みも、シニアを含めて各世代が協力し合える関係を作りたい。ビジネスとして軌道に乗せるには今後3年が勝負と思う」(丑田さん)

五城目町のケースは、一般的に「よそ者」を嫌う風土がある地方としては珍しい。町の職員はこう話す。

「おそらく朝市が続いてきた街道沿いの街であったことで長年、他の地域の人たちが頻繁に出入りしていたからでしょう。『よそ者』を受け入れる文化がもともと備わっていたのだと思います」

地域の起業家と研究家が連携し世界を見据える

BABAME BASE

BABAME BASEの外観。

丑田さんは五城目町を超えた活動の場も広げている。本業のハバタクでは教育、人材育成、コンサルティング、学びに関する企業との共同研究開発、教育機関や企業向けの海外渡航型プログラムの提供なども行っており、東京、ベトナム、米国、フィリピンにも拠点を持つ。

昨年11月には、秋田県の高齢化社会と持続可能性をテーマにした「Akita Age Lab」を立ち上げた。国際教養大学アジア地域研究連携機構、国連大学サステナビリティ高等研究所、東京大学大学院サステナビリティ学専攻、ハバタクも参加するネットワーク型のラボだ。

「地域で起業家と研究者が並走していくアイデアはとても面白い。研究と教育、実践が緩やかにつながっていく感覚がある」(丑田さん)

地方で子育てをしながら世界を見据える。インターネットでどこにいても一定の情報は得られる時代。東京である必要はもうない。

(撮影:藤澤志穂子)


藤澤志穂子(ふじさわ・しほこ):産経新聞秋田支局長。1967年生まれ。学習院大学法学部卒、早稲田大学大学院文学研究科を経て。1992年産経新聞社入社。社会部、経済部、米コロンビア大学大学院ビジネススクールフェロー、外信部などを経て2016年10月から秋田支局長。




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